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技術文書の執筆及び添削をする仕事をしています。
小さい頃から、メッセージボトルを海に流すのが夢でした。しかし、環境汚染は良くないので、代わりにブログを始めてみました。

卒論・研究論文の書き方|明瞭な文章を作成するための注意点・コツ3つ

研究者にとって、卒論や研究論文の執筆は避けて通れない道ですよね。

研究者の本分は研究であるから、論文執筆に時間は割けないという方も多いと思います。

しかし、どれだけ良い研究成果だったとしても、論文の書き方が悪いと、その素晴らしい成果が伝わらないおそれがあります。

ところで、本記事の筆者は、技術文書の作成・添削を行う仕事をしています。

本記事では、私が仕事で気をつけていることや、添削時に気になった事を基に、論文執筆時に最低限気をつけるべきポイントをご紹介します。

論文を書くのが初めての方は、1章から読んでください。
一度でも書いたことがある方は、2章から読むことを推奨します。
※一章は初歩的な内容となっています。

目次

【初心者向け】卒論・研究論文等の技術文書を作成する際に気をつけるべきポイント3つ

論文作成時に気をつけるべきことは主に3つあります。

技術文書作成時に注意すべき点3つ

  1. 事実と、事実から論理的に導かれる意見のみを述べる。 ー 主観的な意見(感想)は書いてはいけません。
  2. 文章全体を、論理的な順序にしたがって構成する。
  3. 分かりやすい文章で構成する。

新明解国語辞典では、「論文」は以下のように定義されています。

ある事柄について、筋道を立てて意見を述べた文章。

三省堂 新明解国語辞典 第6版

上記の定義からも分かる通り、論文では「筋道を立てて意見を述べること」つまり「事実に基づいて論理的に」「筋道を立てて」意見を述べることが求められます。

そのため、①事実と、事実から論理的に導かれる意見のみを述べること②文章全体を、論理的な順序にしたがって構成することが大切です。

①②については、数回執筆経験を積んだ方であれば問題なく出来ることであると思いますので、本記事では割愛します。

本記事では、”③分かりやすい文章で構成する”ためのポイントをご紹介します。

参考

論文の構成については、岡崎章教授が書かれている”論文の書き方9ポイント”が分かりやすいです。

卒論・研究論文の書き方|分かりやすい文章で論文を構成する必要性について

どんな文章を作成するときでも、明瞭な文章を書くことは重要です。

しかし、技術文書では明瞭な文章を書くことが特に重要です。以下では、その理由をご説明します。

卒論・研究論文は「分かりやすい文章」で書く必要がある

論文の内容は非常に専門的複雑なものです。

しかし、論文を公表すると、その分野に精通していない人も目を通すことになります。

そこで、論文を書く際には、そうした人も理解できるような「分かりやすい文章」を構成することが求められます。

では、分かりやすい文章にするためにはどうすれば良いのでしょうか。

筆者は、分かりやすい文章を作成するためのコツは以下の2点であると考えています。

分かりやすい文章にするコツ

  1. 専門知識のない人でも分かるように噛み砕いて説明する
  2. 明瞭な文章で論文を構成する

卒論・研究論文では、基礎知識の説明をする必要はない

①で「専門知識のない人でも分かるように噛み砕いて説明する」ことがコツであると述べました。

では、技術文書は、その論文を1本読むだけで、全く専門分野の違う人までが理解できるように書く必要があるのでしょうか。

答えは否です。なぜなら、基礎知識は他の論文を引用すれば良いからです。

背景技術について分かりやすく書かれている文献を探し、参考文献として掲載すればそれで十分です。

論文では、「あなたが研究して解明した事」だけを淡々と書いてください。

分野の違う人にも分かるようにと、基礎知識について長々と説明してしまうと、論文のどこに独自性があるのかが不明瞭になります。

あくまで、論文のメインは「研究して解明した事」なので、基礎知識まで細かく説明する必要はありません。

卒論・研究論文で「噛み砕いて説明する」必要があるのは、実験手法のみ

論文では、「再現性」が求められます。

その論文を読んだ第三者が、同じ材料・手順で実験をした時に、同じ結果が導き出される必要があります。

一昔前、「STAP細胞」のニュースが話題になりましたね。

STAP細胞は、この「再現性」がなかったため問題になりました。論文に書いてある手順で実験をしても、第三者が同じ結果を得ることができなかったのです。

この例のように、再現性がない論文は論文そのものの信憑性が無くなってしまいます

したがって、実験の手順は「その研究に関わっていない第三者が読んでも再現できる程度に」噛み砕いて書く必要があります。

実験前の前処理等、その研究をしている人にとっては自明な技術であったとしても、省略しない方が良いでしょう。

同じ分野の研究者が、その論文の実験手法を読んで再現できる程度に詳細に説明する必要があります。

卒論・研究論文は、明瞭な文章で構成する必要がある

前述したとおり、論文の内容は非常に専門的複雑なものです。

ここで、文章まで複雑になると、いよいよ何が言いたいのか分からない文章になってしまいます。

したがって、論文は、なるべくシンプルかつ明瞭な文章で書く必要があります。

シンプルかつ明瞭な文章を書くコツは色々ありますが、以下の章では「技術文書作成時」に特化したコツをご紹介します。

卒論・研究論文の書き方|明瞭な文章を作成するための注意点・コツつ

卒論・研究論文の書き方のコツ その① 必ず主語を明示する

技術文書を書く際に一番意識すべきことは「主語を明記する」ことです。

例えば、監視カメラのシステムについて説明するために、以下のような文章を作成したとしましょう。

画像から顔を認識すると、人が侵入したと認識する。

この文章は主語がありませんので、動作の主体が不明です。

実際は、「画像から顔を認識」し、「人が侵入したと認識する」のはシステム側で行っているのだとしても、第三者にはそれが伝わりません。

そのため、「人が」画像から顔を認識すると、人が侵入したと認識する と理解されてしまう可能性もあります。

主語が変わるだけで、全く別の研究になってしまいますよね。

論文を書く際には、必ず主語を明示する!

卒論・研究論文の書き方のコツ その② 一文は短く、主語は1つに

技術文書を書く際に限らず、「一文を短くする」ことは可読性を高めます。

しかし、以下のように考える方も多いのではないでしょうか。

一文を短くすれば良いのは分かるけど、どこで文章を切れば良いのか分からない…

技術文書では、文章は主語が変わるところで切ると良いです。

文章に主語が複数あるとどうなる?

「主語が変わるところで切る」どういうことか、例をあげて説明します。

この監視システムは、カメラが撮影を行うと、撮影画像が画像処理装置へ送信され、画像処理装置が送信された画像から顔を認識すると、画像処理装置から監視装置へ信号が送信され、人が侵入したと認識することが特徴である。

この文章を読んだ皆さんは、非常に読みにくい文章だと感じたかと思います。

読みにくさの一番の原因は、1文の中に複数の主語が存在することにあります。赤マーカで示すように、この文には主語が5つも含まれています。

この監視システムは、カメラが撮影を行うと、撮影画像が画像処理装置へ送信され、画像処理装置が送信された画像から顔を検出すると、画像処理装置は監視装置へ信号を送信し、人が侵入したと認識する

このように、一文の中に複数の主語が含まれると、可読性が下がります。

さらに、文章の係り受けが不明確になり、全く別の意味になってしまう可能性があります。

例えば、先ほど青マーカで示した「人が侵入したと認識する」という文ですが、どの主語に対応する述語だと思いますか?

文章をよく読むと、画像処理装置は「画像から顔を検出する」役目のみを果たしていますので、対応する主語は「監視システム(監視装置)」です。

監視システムは、…人が侵入したと認識する」という対応関係になっています。

しかし、この文章は非常に長いため、「監視システム」と「人が侵入したと認識する」との距離が離れてしまっています。

そのため、上記文章は、一見すると以下のようにも読めまてしまいます。

画像処理装置は①監視装置へ信号を送信し、②人が侵入したと認識する

直前の主語である「画像処理装置」が、「人が侵入したと認識する」にかかっているようにも読めるのです。

これは、技術文書に限った話ではありませんが、修飾語と被修飾語の距離が離れると文章が不明確になります。

そういった意味でも、1文を短くして主語と述語の距離を縮めることは重要となります。

修飾語・被修飾語を入れる位置については、以下の記事で詳しく説明しています。

明瞭な文章にするためには、1文に入れる主語を1つだけにする

では、どうしたら誤解のない文章にできるのかというと、1文に主語を1つしか含ませないことで、明瞭な文章にすることができます。

この監視システムでは、以下の手順により人が侵入したことを認識する

まず、カメラが撮影を行う。カメラによって撮影された画像は、画像処理装置へ送信される。

次に、画像処理装置は、カメラから画像受信すると、撮影画像から顔検出を行う。

画像処理装置は、撮影画像から顔を検出した場合、監視装置へ信号を送信する。

監視装置は、画像処理装置から信号を受信した場合に、人が侵入したと認識する。

このように、一文に主語を一つに絞っただけで大分可読性が上がることがご理解いただけたかと思います。

一文の主語を一つに絞ることで、文章全体が短くなるため、文章の係り受けが明確になります。

卒論・研究論文の書き方のコツ その③ 適切な位置で句読点を打つ

読点を入れる位置を間違えない

こちらも非常に重要なポイントです。句読点の位置がおかしいと、文章の意味が変わってくることがあります。

例えば、以下の例を見てみてください。

  1. 私は忙しいながらも懸命に活動している彼女を応援したいと思っている。
  2. 私は忙しいながらも、懸命に活動している彼女を応援したいと思っている。
  3. 私は忙しいながらも懸命に、活動している彼女を応援したいと思っている。
  4. 私は、忙しいながらも懸命に活動している彼女を、応援したいと思っている。
  5. 私は、忙しいながらも、懸命に、活動している彼女を、応援したいと思っている。

上の文章は、全て同じ文章ですが、意味が全く変わってきます。

  1. 「忙しいながらも」「懸命に」が「私」に掛かるのか、「彼女」に掛かるのか不明
  2. 「忙しいながらも」は「私」に掛かり、「懸命に」は「彼女」に掛かっている
  3. 「忙しいながらも」「懸命に」は「私」に掛かっている
  4. 「忙しいながらも」「懸命に」は「彼女」に掛かっている
  5. 「忙しいながらも」「懸命に」が「私」に掛かるのか、「彼女」に掛かるのか不明

読点には、その修飾語の被修飾語がどれなのかを明示する働きがあります。

そのため、①や⑤の例文のように、読点を全く入れなかったり、読点を入れすぎたりすると不明瞭な文章になってしまいます。

したがって、明瞭な文章を書くためには、読点を適度に入れることが重要です。

しかし、ここで注意すべき点があります。

それは、読点を入れる位置を間違えると、文章の意味が変わってしまうという点です。

②〜④の例文は、文章自体は全く同じですが、読点の位置が異なるだけで意味も変わっています。

本当は「私」に「忙しいながらも」「懸命に」を掛けたいのに、④のように句読点を打ってしまうと、文章の意味が変わってしまいます。

読点を入れる位置を間違えると、文章の意味が変わってしまう虞がある。

読点を入れるべき箇所はどう見分ける?

今回は、簡単にできる4つのコツをご紹介します。

  1. 主語の後ろに読点を入れる
  2. 接続詞の後ろに読点を入れる
  3. 修飾語の途中には読点を入れない
  4. 一息で読めるところに読点を入れる

①は、主語が長くなった時に特に有効な手法です。

主語の後ろに読点を入れることで、どこまでが主語なのか明確になります。それによって、主語と述語の関係も明確になるため、文章の可読性が上がります。

②は、接続詞の後に読点を打つことでより接続詞が強調されるという効果があります。

接続詞の後に読点を打つことについては、国際文化フォーラムのHPにて詳細に説明されていますので、そちらを見ていただくと分かりやすいと思います。

③は、係り受けを不明確にしないために重要です。

先程ご紹介した例のように、読点を入れる位置がおかしいと、文章全体の意味が変わってきます。

私は、忙しいながらも懸命に活動している彼女を、応援したいと思っている。

この例では、「主語・目的語・述語」の区切りで点を入れているため、係り受けが明確です。

しかし、目的語である「忙しいながらも懸命に活動している彼女を」の間に読点を打ってしまうと、係り受けが不明確になります。

「忙しいながらも懸命に働いている」という修飾語の塊は、「彼女を」に掛かるということを明確にしたいのであれば、この修飾語の塊の中に読点は入れるべきではありません。

④は、技術文書に限らずによく言われているコツです。

一息で読めるところで読点を入れると、可読性が上がります。

卒論・研究論文の書き方がよく分かる!おすすめの本・WEBサイト3選

技術文書を書くにあたって気をつけたい点は、本記事で紹介した以外にも沢山あります。

そこで、技術文書を書くにあたって一度は読んでおきたいオススメの本・WEBサイトを3つご紹介します。

木下 是雄「理科系の作文技術」中公新書(1981)

初版1981年と、かなり古い本ですが良書です。

ロジカルに説明されており、非常に分かりやすいです。

例文が全て技術的な分野のものであるため、そのテクニックをどう自身の論文に活かすかを想像し易いと思います。

ただし、良書ではあるのですが、少し文体が硬いため、苦手意識を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。

分かりやすさ・気軽さを重視するのであれば、次にご紹介する「文章力の基本」の購入をお勧めします。

阿倍 紘久「文章力の基本 簡単だけど、だれも教えてくれない77のテクニック」日本実業出版社(2009)

こちらは、技術文書執筆者向けの参考書ではなく、文章全般のライティングテクニックが掲載された本です。

こちらの参考書は、何といっても気軽にサクサク読める点が魅力です。

原文・改善例の両方が掲載されているため、自分の文章をどのように改善したら良いか理解し易いと思います。

私が、中高生に「レポートの書き方の参考になる本を1冊お勧めしてくれ」と言われたなら、必ずこの本をお勧めします。

しかし、この本はあくまで一般の文章力についての参考書であり、技術文書に特化したものではありません

やはり、技術文書の書き方を学びたいのであれば「理科系の作文技術」の購入をお勧めします。

山之内総合研究所「技術文書の書き方 テクニカルライティングセミナー」

本記事執筆にあたり発見したサイトです。

技術文書の書き方のコツが非常にコンパクトに纏まっていて読みやすいです。

無料で読めますので、是非参考にしてください。

山之内総合研究所「技術文書の書き方 テクニカルライティングセミナー」

まとめ:卒論・研究論文の書き方|明瞭な文章を作成するための注意点・コツ3つ

色々と説明してきましたが、どうしたら明瞭な文章が書けるのかというのは、非常に難しい課題です。

このコツさえ気を付けていれば明瞭な文章が書けるのかというと、決してそんなことはありません

自分が書こうとしている分野に近い論文を沢山読み、沢山書くことが文章上達の近道だと思います。

なかなか直ぐに直ぐに出来るようになることではないと思いますが、一緒に頑張りましょう!

この記事が、少しでも皆さまのご参考になりましたら幸いです。

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